ピノキオ

(2020.6.19)
僕の愛すべき心の友、ピノキオ。僕はピノキオのことをよく考えます。皆さんもきっとそうですよね。2年ほど前、中学生になった娘と夕食時、たまたまチラッとピノキオの話になりました。そして、娘に僕のピノキオに対する想いを、海外出張が終わって落ち着いたらお話にしてあげよう、と思っていた矢先・・・出張先のイランのテヘランの、バザールの脇にある雑貨屋で、彼は僕を待っていました。

 

 

小道からチラッと見えた雑貨屋さんに、彼は居ました。僕はドキッとしました。とは言ってもかなり内気な性格なので、ここは無難を装いお店を素通り。でももちろん、僕の頭の中はピノキオでいっぱいです。

 

世の中は魔法で満ち溢れているし、特にイランは夢と魔法の世界。小道を歩いているだけで、魔法にかかってしまいます。もともと、イランにピノキオがいること自体、普通じゃありません。30歩ほど歩いて、回れ右。すごい魔法の力で、雑貨屋さんの方に引き戻されていったのでした。

 

ほんとは僕は、ピノキオだけがお目当てで店に入ってるんですが、自分の中では一生懸命、「ちょっと、チラッと、覗いてみただけですよ~」、という感じを最大限装ってお店に入ります。そこでお見せの中のいろんな雑貨を物色しているうちに、「あ、この人形、なんかかわいいよね。」みたいに、偶然たまたま、ピノキオを見つけた風を装いました。「もしかしてこれは、売り物ではなく、単なる飾りなのかも・・・」と急に不安と迷いが生じます。そして意を決して、「これ、売り物ですか?」と聞いたら・・・、なんと雑貨屋のおじさん、英語が通じない。。。

 

んー、想定外。困ったなー、、、と思っていると、お店の中にいたお客さんの一人(素敵な女の子)が、「なになにっ?通訳してあげるよっ?」と、助け舟を出してくれました。

 

で、

「売り物?」「そうだよ。」

「いくら?」「350万リアル。」

 

げげっ。350万とか、むちゃくちゃ高そう!日本円でいくらなんだろう・・・、と慣れない単位換算をしてみると、よくわからないけど4000円とか5000円くらいな雰囲気。イランで安い生活に慣れていたので、ちょっと予想より高くてびっくりしちゃって、「それではさようなら」、とピノキオを買うのをあきらめて、お店を出たのでした。

 

そして、また30歩あるいて回れ右。


魔法ってけっこうすごくて、結界みたいなものがあるんですね。買うまでは店から30m以上は離れられない、みたいな。見えない鎖につながれてるみたいな。

 

僕も大人なので、はっきり言って5000円くらい、その気になればバシッと使えます。たった5000円をケチって、こんな異国での運命の出会いを棒に振ったら、後悔しますよね。しかも頭の中で、少し前に死んだ父がささやきました。「そんなもん、ほしいんやったら、こうといたらええねん。あとですてても、ええんやで。」

 

お店に戻ると、おじさんが、「やっぱり戻ってきたか」と、僕が戻ってくるのがわかっていたような笑顔で迎えます。魔法使いはこの人だったか・・・。僕は完全に彼に操られていたようです。

 

すると魔法使いのおじさんが、僕に、僕のホテルのカギを差し出すではありませんか。さっき、英語が通じずに慌てた時に、筆談なら通じるかと思って、メモ帳とペンをズボンのポケットから出しました。その時、大事なホテルのカギを落としてしまったようです。このままホテルに帰っていたら、カギがなくてアブナイところだった。。。というか、僕がカギを落とすのも含めて、この世界の素敵な魔法なのです。

 

こうして無事、ピノキオは僕の手へと渡りました。

 

 

 

 

 

ピノキオはホコリまみれでした。何年くらいお店で僕を待っていたんでしょうか。どこかからお兄さんが出てきて、道端で彼のホコリをパタパタ。ピノキオ君がどんどんきれいになっていきます。お兄さんは、道行く人と、「それ、売れたの?」「売れたんだよー!」みたいな感じで楽しそうにしゃべってます。何しゃべってるのかわからないけど。

 

---

 

こういう経緯で僕のものになったピノキオ。出張の間、スーツケースに入らず、移動があるたびにそのままむき出しで持ち歩くことになりました。これが周りに大人気!ホテルでは、受付のおねえさんも、ボーイさんも、お客さんも、みんな、「すっごくキュートだねっ!」みたいに声をかけてくれます。ピノキオを持ち歩いていないときでも、「あの人形、元気?」と声をかけてくれたり、他のスタッフに、「彼は昨日、素敵な人形を手に入れて・・・」とか自慢してくれたり。とっても誇らしい気になります。エッヘン。

 

ラップ調に表現すると・・・

 

埃にまみれた薄暗い過去。日の光満ちた今日この道。そう、それが誇り。心ホッコリ、顔もほころびニッコリ。という感じでしょうか。

 

 

で、無事帰国。

 

 

 

おしまい。

 

という話をしたかったわけではないのです。

 

今日はピノキオ君の最大の魅力、すなわち、彼の哀愁について、書きたかったのでした。前置きが長くなってしまって、本体は短いんですが、始まり始まり。

 

ピノキオ。彼の鼻は特殊です。ウソをつくと伸びるのです。僕はこれが、かわいそうでかわいそうでなりません。僕は「ウソをつくこと」について考えるのが趣味なので、よく彼を思い出していたのでした。実際のピノキオの話をよく知らないまま、ぼんやりしたイメージで彼をとらえているだけなので、もしかしたら僕の認識がおかしいのかもしれませんが。

 

ウソ発見器を背負わされて生きなければいけないということ。これはかなり、キツイですよね。しかも、自分の発言が本当なのかウソなのか、それはその言葉を発した自分自身が決めるのではなく、発見器に勝手に判断されてしまうのです。こういうことされると、人格が崩壊してしまう気がするな。大声では言えませんが、ピノキオにこんな魔法をかけた妖精さん・・・、やっぱり言うのはやめとこう。

 

もしかすると、ピノキオは、そんな罰を受けても当たり前の、ヒドイ落ち度があるのかもしれません。僕は実際のピノキオのお話の内容をよく知らないので、実はピノキオは当然の報いをうけただけかもしれません。でもなんとなく、これはかわいそー、と思います。ウソって、もちろん程度や頻度によりますが、そもそも基本的に悪いことじゃないし。ウソ無しで世界は成り立ちえないし。

 

ということで、僕のピノキオ。出会った時にはもうすでに、鼻がちょっと高くなっちゃっています。ウソ発見器付きの彼をしゃべらせて、苦しめるようなヒドイことはしたくないんですよね。だから、僕と彼とは、常に無言です。僕は彼に会話を要求しません。彼は僕の元では心の中で何を考えても自由です。思う存分その自由を堪能してほしいですね。

 

おしまい。

2020年06月19日