犬について

(2020.6.19)
犬はなぜ、犬という名前なのでしょうか?猫は?鳥は?

 

名前の起源って面白いですね。今日はこれについて考察したいと思います。

 

身の回りの、生き物の名前の起源を考えてみて、気付いたことがあるんですよ。メジャー系は2文字が多いですね。

 

イヌ、ネコ、ヒト、ウシ、ウマ、ヤギ、カニ、ムシ、ダニ、ハエ。1文字は?蚊(カ)、とか、そこそこあるでしょうね。仮名は50音で、でも「ゐ」とか「ゑ」とか使わないし、「を」や「ん」から始まらない。「ば」とか「ぱ」とかも使えるので、1文字なら読みでは70種類くらいが上限でしょうね。2文字になると、かなり選択肢が増えます。読みが70×70=4900通りくらいの組み合わせになるし。2文字目には「ん」も使えるし、「っ」などのちっちゃい音とか、「ー」とかも使えるからもう少し多いでしょうね。

 

身の回りのモノの名前、少なくとも僕が決めたわけじゃない。決めれるものなら決めたかったけど。きっと昔の人が決めたはず。 そこで、イヌ、を誰が、どのようにして名付けたのかについて想像してみました。

 

昔々、小さな村がありました。100人くらい住んでいました。まだ文字とか無かった頃。そして、まだ身の回りのいろんなものに名前が無かった、あるいは定まっていなかった時代。

 

縄文時代とか弥生時代の平均寿命は15歳とか20歳とか程度らしいですね。もちろん乳幼児の死者の多さが平均寿命を下げてるんでしょうけど、あまり長生きもしなかったようです。とは言っても、縄文時代でも60歳代の骨も見つかってるそうで、中にはケガや病気にあわず、運よく健康に長生きして、70代、80代になる人も、中にはいたでしょう。

 

文字が無くて、これだけ世代の入れ替わりも早い。そこで大切になってくるのは、生き字引的な長老ですよね。

 

さて。この僕の想像の村には、なんと、3800歳の大ババ様がいました。

 

びっくりですね。何が起こってるのかわからない。 こっそり本当のことを話すと、彼女は76歳なんです。でも、その100人規模の村の全員が、大ババのことを3800歳だと信じています。大ババ様自身は、自分が何歳なのか覚えてない。なおかつあまり興味もない。王者の余裕、ですね。

 

2年前に実年齢62歳、公称250歳の村長(むらおさ)が死にました。村長は生前、村人達に言っていました。「大ババ様は、3800歳」。みんな数字に弱いし、あまり気にしません。カレンダーなんか無いし。文字が無いし。250歳=すごくたくさん。3800歳=もっともっとたくさん。なのです。

 

みんなが大ババ様に年齢を聞くと、大ババ様は言うのです。「忘れた」。

 

大ババ様の若かった頃はどんな世界だったのかを聞くと、大ババ様は言います。「お月様がまだ生まれておらんで、夜がなかった」。みんなは、驚きます。それはすごい。さすがに3800年生きているだけあって、お月様よりも長生きだとは・・・。そして、夜の無い世界を想像します。大変そうだなー。寝ないのかなー。暑そうだなー。などなど。

 

大ババ様は、世の中のいろんなことを知っています。地球の成り立ち、風の生まれる場所。なぜ雨は降るのか。歯はなぜ一度だけ生え変わるのか。大ババ様の知らないこともあります。大ババ様自身の年齢。それとか例えば、なぜ人は死ぬのか。人は死んだらどこに行くのか。たくさんの人がこれまでに、大ババ様に死に関する質問をしてきましたが、大ババ様はずっと、はぐらかしたり、「知らん」と言ったりします。村人たちは噂します。死んだら、きっとヒドイところに行くんだ。大ババ様はワシ等にそれを隠してるんだ。おそろしやー。

 

村には何人ものスペシャリストがいます。このジャンルの質問や相談は、この人。という感じです。病気になれば、誰々に聞けばよい。家を建てる時は、誰々が良い知恵を持っている。日々の生活は、村長の指示に従う。食品の貯蔵は誰。珍しいキノコを見つけたら、誰。などなど。

 

大ババ様は、最後の砦です。誰に聞いたらよいかわからない質問。誰も知らない疑問。村人たちは、そういうものの答えを求めて大ババ様の元にやってきます。

 

ある時、村にシカが迷い込みました。このあたりにはシカがおらず、村人の誰もが、それまでシカを見たことがありませんでした。でも美味しそう。こういう場合は、大ババ様が活躍します。村人たちに足を縛られ、引きずられ、前に出された怯えたシカを見て、彼女は言います。

 

「わしはこういう生き物を、見たことがない。今までこんな生き物は、おらなんだ。だから、これが何かは、よく知らん。」

 

村人たちは、ざわめきます。3800年もの間、こんな生き物を見たことがないとは、、、新種じゃ。あるいは、神の使いじゃ。

 

大ババ様は、話を続けます。これには、頭から棒が2つ生えておる。この類なら昔々、聞いたことがある。ツモ(ツノのまちがい?)というものじゃ。そして、2つのツモを持つ生き物は、ポニ(オニの間違い?)というもので、とても恐ろしいんじゃ。おそらく、これは、ポニじゃ。

 

みんなは慌てます。この弱弱しく、おいしそうに見える生き物は、そんなに恐ろしいポニというものだったとは。 大ババ様は、さらに続けます。

 

「捕まえたのは、誰じゃ?」

 

村人たちは、シーン、と静まり返ります。みんな胸がドキドキしだします。5人ほどの額から、冷や汗がど~っと出てきます。冷や汗タラタラの村人Aが耐え切れなくなって、急に叫びます。

 

「俺じゃねえ!俺は見つけただけだ。」

 

実はこれ、ちょっとだけウソが混ざっています。彼はシカを見つけて、そして、周りにいた村人B、C、Dに、美味しそうだから捕まえろよ、とそそのかしたのです。「見つけただけ」から幾分踏み出しています。もし彼がピノキオだったら、少し鼻が伸びていたところです。 村人BがAに向かって怒鳴ります。

 

「おまえ!陥れやがって!やったのはお前じゃないか!」

 

実際にシカを捕まえたのは、村人B、C、Dの共犯ですが、主犯格はBでした。

 

やったのは、おまえじゃなく、俺。実は。

 

ここからは、外野も巻き込んで、あいつだ、あいつじゃない、とかゴチャゴチャ、グチャグチャになってくるんですが、そこは端折りましょう。イヌにまで話が行きつかなくなっちゃうので。

 

大ババ様が言いました。 「お前たち、うるさいうるさい。このポニ様を、逃がしてくるんじゃ。ここで死になさったら悪い予感がする。」

 

この時の村人A、B、C、Dのホッとした顔といったらありません。何かわからないけど、なんか俺たち助かるみたい。すっごいマズいことをしてしまったけど、救済される道があるようだ、みたいな。それでも4人は、ポニ様に触るのをかなり躊躇していましたが、大ババ様が「早くした方が良いぞ。ここで死になさったら、悪い予感がする。」と言うのを聞いて、慌ててポニ様を逃がしに行きました。

 

大ババ様は、知らないことも多いのです。間違うことも多いのですが、それでも大ババ様の言葉や助言は重いのです。3800年の歴史の重みをもった言葉ですから。

 

この村では、その後シカが周りに増えだして、村人との接触も増えてきました。始めは怖がっていた村人たちも、何となく、「ポニって、どう見ても恐ろしい感じじゃないよね・・・」となってきます。そりゃそうですよ。シカですから。中には勇気を出して、ポニを食べる輩も出てきました。

 

これが結構、美味しいとかいう噂も広まります。

 

大ババ様は言います。「この生き物はおそらく、ポニではない。ギボじゃ。」

 

大ババ様、何となく、濁音を使いたかった気分のようです。こういう風に、当時の社会では、いろんなトライアル&エラーも起こります。村人たちはたまにギボ狩りをして、ギボのツモを釣り針やらネックレスやら、魔除けやら薬やらに使ったりもしました。

 

そのうち大ババ様もお亡くなりになりました。村全体で葬儀をしました。何しろ、大ババ様の人生3800余年の最後に立ち会った村人達ですから。

 

この村では、イヌのことはムゲルバルという名前で呼んでいましたが、なぜこれがムゲルバルなのか、大ババ様が死んだ今となってはわかりません。

 

誰かが誰かに聞きます。「なぜムゲルバルはムゲルバルなの?」

聞かれた誰かは答えます。「それは昔からそう決まってるからだよ。」

「昔ってどのくらい昔?」

「まだお月様が生まれていない頃からだよ。」

 

空にはベソリが飛び、ギボはカンクによく食べられ、ムゲルバルはカンクを追い払う。春になればヒキが脱皮して、レノが卵を産み、シロスがうるさく鳴き出す。

 

ある時、この村が、強い勢力に支配されました。幸い、村人たちは殺されませんでした。新しい勢力が、新しい村長と、何人かの役人を村に置きました。村人たちは普段とそれほど変わらず、ただたまに貢物を役所に差し出さなければならなくなりました。

 

その勢力から派遣された役人たちは、この村にいるムゲルバルを見て言いました。「ここにもシカカがいるのか」。

 

こうして、ムゲルバルはシカカになりました。その村はやがて、別の勢力の隣村と交流が深まりました。隣村ではシカカはイヌと呼ばれていました。

 

という感じで、いろんなものの名前が決まっていったらしいですよ。大ババ様によると。

2020年06月19日